妊婦さんへの栄養教育

発展途上国の女性の多くがもつ栄養課題のひとつである鉄欠乏性貧血は、健康や生産性に及ぼす影響が大きく、解決が急がれます。母親の鉄欠乏性貧血は、生まれた子の低体重や母子の死亡の原因にもなります。食事から摂る鉄が欠乏すると貧血が生じ、免疫系機能が低下します。女性は妊娠や出産に備え鉄分を多く必要とするため、鉄欠乏性貧血や他の栄養素欠乏症になりやすい傾向があります。鉄欠乏性貧血は特に、幼児期、思春期の女子そして産み育てる世代の女性に高率に発症する栄養課題です。

低出生体重児

ネパールでは、低体重かつ貧血の妊婦が多く、死産、低出生体重児、新生児死亡のリスクが未だ高い状況にあります。その一方で、最近増えている過体重や肥満は妊娠合併症や周産期死亡率、早産、流産、死産、巨大児、新生児低血糖などのリスクを高めます。そして、卵子と精子の受精時や、赤ちゃんが子宮の中で育つ胎児期や乳幼児期に母体が低栄養または過栄養であったこと、さらに、良くない生活習慣を送ることで病気が発症するという概念が最近は注目されており、ドーハッド(DOHaD)と呼ばれています。DOHaD(Developmental Origins of Health and Disease)の略で、「将来の健康や特定の病気へのかかりやすさは、胎児期や生後早期の環境の影響を強く受けて決定される」という仮説です。

例えば、低出生体重児は成人後に糖尿病などの生活習慣病の発症リスクが高いという結果をもとに立てられた、「将来の健康や疾患発症リスクは、胎児期や生後早期の環境の影響を受けて決定される」という説で、妊娠中の栄養不良は母子に⾧期的な悪影響を及ぼす事が分かってきたのです。ネパールの妊娠中の貧血率は直近のデータで全妊婦の40%程度と高く、過去20年間であまり改善されていません。国策として全妊婦を対象に鉄剤が配布されましたが、貧血は改善されていません。 私たちは、2017-2019年ネパールの妊婦に文字を使わない絵とノモグラムだけの母子手帳と妊婦個別に栄養指導することで、貧血の予防と改善に貢献してきました。(科研費:若手研究)そして、ネパールの妊婦健康診査では行われていない、保健指導を個別に実施することで、ネパール人妊婦のヘルスリテラシー(健康に関する情報を正しく入手し、理解し、活用する能力)が発展することも明らかになりました。母親のヘルスリテラシーの向上は母親自身の健康に良い影響を与えるだけではなく、子どもたち、家族の健康へも良い影響を与えます。

妊婦の貧血改善プログラム
子供たちが書いた絵

このプロジェクトは、農村部や山岳地域に住む妊婦さんへも適応できるか、研究活動を継続中です。(科研費:国際共同研究強化(b))